こんにちは。おとFITNESS 運営者の「OTOWA」です。
背中を鍛えて逆三角形の体を作ろうと懸垂を始めたものの、終わった後に背中よりも腕がパンパンになってしまうことはありませんか。
本来なら背中のメインの筋肉である広背筋に効かせたいのに、なぜか腕の筋肉である上腕二頭筋ばかりが疲労してしまう現象は、実は多くのトレーニーが直面する壁です。
自分のやり方が間違っているのか、それともフォームやバーの握り方に関して、順手と逆手の選択に問題があるのか、と不安になることもあるでしょう。
しかし、これは才能の問題ではなく、体の使い方のちょっとしたコツを知らないだけかもしれません。そこで本記事では、現役トレーナーである私が、正しい懸垂のやり方を解説します!
- 懸垂で腕ばかり疲れてしまう解剖学的な原因とメカニズム
- 背中に強烈な刺激を入れるための正しい手首とグリップの形
- 握力の限界を突破し広背筋に集中するための必須アイテムを紹介
- 筋力不足の人でも背中を意識できる段階的な練習ステップ
懸垂が二頭筋に効いてしまう主な原因とメカニズム

一生懸命体を持ち上げようとすればするほど、背中ではなく腕の力を使ってしまうのには、人体の構造に基づいた明確な理由があります。
まずは、なぜ私たちの体が、懸垂動作において、上腕二頭筋を優先して使ってしまうのか、その仕組みを紐解いていきましょう。
順手と逆手の違いによる筋肉への刺激
懸垂に取り組む際、多くの人が最初に迷うのが、バーにぶら下がるときに手を「順手(プルアップ)」と「逆手(チンアップ)」どちらの握り方で行うべきかという点です。
もしあなたが「どうしても腕に効いてしまう」と悩んでいるなら、まずは握り方の選択を見直す必要があるかもしれません。
逆手(手のひらが自分を向く握り方)は、解剖学的に上腕二頭筋が最も力を発揮しやすいポジションです。肘を曲げる動作において二頭筋が主動筋として強く働くため、体を持ち上げる感覚は掴みやすいものの、その代わり、負荷の大部分が腕に集中してしまいます。
ですので腕の力こぶである二頭筋を鍛えたい場合には、非常に有効ですが、広背筋をターゲットにする場合には向いてない方法です。
一方、順手(手のひらが外を向く握り方)は、上腕二頭筋の関与をある程度抑制できる構造になっています。順手で行うことで、腕の力だけに頼ることが難しくなり、必然的に背中の筋肉を使わざるを得ない状況を作り出せます。
特に、手幅を肩幅よりも少し広めに設定する「ワイドグリップ」にすることで、肩関節の内転動作が強調され、広背筋への刺激を最大化することができます。
まずは「順手」で、かつ手幅を肩幅より少し広めに設定して行うのが、背中をターゲットにするための基本ラインになります。
もちろん、逆手が完全に悪いわけではありません。初心者のうちは逆手の方が回数をこなしやすく、成功体験を得やすいというメリットもあります。
しかし、「広背筋に効かせる」という目的に特化するのであれば、まずは順手でのフォーム習得を優先することをおすすめします。
手首の巻き込みが前腕の疲労を招く
バーを握るとき、無意識のうちに手首を内側にグッと巻き込んで(掌屈させて)いませんか?実はこの「手首の巻き込み」こそが、二頭筋と前腕を過剰に働かせるスイッチになってしまいます。
人間の体には「運動連鎖(キネティックチェーン)」という仕組みがあり、末端の関節の動きが隣接する関節や筋肉に連動して影響を与えます。手首を強く曲げると、前腕の屈筋群が強く収縮します。この前腕の緊張は、神経的な反射を通じて肘を曲げる筋肉、つまり上腕二頭筋の活動を誘発しやすくなるのです。
具体的には、手首を巻き込んでバーを握りしめることで、前腕がパンパンに張ってしまい、その疲労が「もう引けない」という感覚に繋がります。しかし、この時背中の筋肉はまだ余力を残していることが多いのです。
つまり、背中のトレーニングをしているつもりでも、実際には前腕と二頭筋の持久力テストを行っている状態になってしまっているわけです。
この問題を解決するには、手首を真っ直ぐに保つ、あるいは少しだけ反らせる(背屈させる)くらいの意識を持つことが重要です。手首の角度一つで、腕への負荷の入り方は劇的に変わります。
ただ、手首を真っ直ぐに保つのは筋トレ初心者の場合は難しいので、最初はやや反らせた状態で懸垂に慣れ、その後徐々に手首の角度をなくしていきましょう。
巻き肩だと背中より腕に負荷が逃げる
現代人に多い「巻き肩」や「猫背」の姿勢も、懸垂の効果を半減させる大きな要因です。広背筋を最大まで収縮させるには、胸を張って(胸椎を伸展させて)肩甲骨を寄せ下げる必要があります。
しかし、デスクワークやスマートフォンの長時間使用などで背中が丸まった状態が癖になっていると、肩甲骨の動きがロックされてしまいます。
肩甲骨がスムーズに下方回旋・内転できない状態で体を持ち上げようとすると、体は肩関節の伸展(背中の動き)ではなく、肘関節の屈曲(腕の動き)に頼らざるを得なくなります。
姿勢改善がフォーム改善の鍵
つまり、姿勢が悪いまま懸垂を行うことは、自ら進んで腕のトレーニングをしているようなものなのです。懸垂を行う前に、まずは胸椎のストレッチや、肩甲骨周りをほぐす動的ストレッチを行うことが、遠回りのようでいて実は一番の近道です。
胸をしっかりと張り、天井を見上げるような姿勢を作ることで、初めて広背筋が主役として働ける環境が整います。
懸垂ができない人が陥るフォームの罠
まだ筋力が十分に備わっていない段階で、無理に顎をバーの上まで持ち上げようとすると、体は「代償動作」と呼ばれる誤魔化しの動きを行います。
苦しくなると肩をすくめ、脇を開き、背中を丸めてでも体を上げようとします。これは専門的には「屈曲シナジー」と呼ばれる体の防衛反応に近いもので、とにかく腕の力(屈筋群)を総動員してでもトレーニングをしようとする動きです。
脳が「体を引き上げる」という目的を達成するために、なりふり構わず使える筋肉を全て動員した結果、最も使いやすい腕の筋肉が酷使されるのです。
この状態では広背筋はほとんど機能しておらず、トレーニング効果が得られないどころか、肩や肘の関節を痛める原因にもなりかねません。
「顎をバーより上に出す」ことよりも、「正しいフォームで引ける範囲まで引く」ことの方が、ボディメイクにおいては遥かに重要です。
ですので、初心者のうちは可動域(動かす範囲)が多少、少なくなっても大丈夫なので、しっかり胸を張った状態で、背中の肩甲骨を寄せて動作を行うことを意識しましょう。
背中に効かない感覚の正体とは
「そもそも背中に効くという感覚がわからない」という方も多いですね。これはマインドマッスルコネクション(脳と筋肉の神経伝達)の問題です。
私たちは普段の生活で、目の前にある物を手で引き寄せる動作は頻繁に行いますが、高い位置にある物を背中の力で引き下げる動作はほとんど行いません。
そのため、脳の身体地図において広背筋の存在感は薄く、意識的に動かすことが難しくなっています。脳にとって懸垂は「不慣れな動作」であり、使い慣れた腕の筋肉を優先して指令を出してしまうのです。
この神経回路を書き換えるには、正しいフォームでの反復練習に加え、意識的なコントロールが必要です。例えば、パートナーに背中の筋肉を触ってもらいながら動作を行ったり、動作中に「背中を使う」と強く念じたりすることも有効です。地道な作業ですが、神経回路が繋がれば、驚くほど背中に刺激が入るようになります。
懸垂で二頭筋に効いてしまう悩みを解消する練習法

原因がわかったところで、次はいよいよ実践的な解決策です。フォームのちょっとした意識の変化や、便利なギアを活用することで、腕への負担を劇的に減らし、背中に強烈な刺激を入れることが可能になります。
サムレスグリップで腕の関与を減らす
今日からすぐに試せる最も効果的なテクニックが、親指をバーの下に回さずに、人差し指から小指と同じ並びで引っ掛ける「サムレスグリップ」です。
親指をバーに巻き付ける「サムアラウンドグリップ」の場合、どうしても「握る」という意識が強くなり、前腕に力が入りやすくなります。
一方、親指を外すサムレスグリップにすることで、バーを強く握り込むことが物理的に難しくなります。これにより前腕の無駄な力が抜け、腕を「物を掴む道具」ではなく、単なる「フック(鍵爪)」として扱いやすくなります。
指先で引っ掛けるだけの感覚にすることで、腕の筋肉の動員を抑え、肘から下を脱力させたまま動作を行いやすくなるのです。
特に、小指と薬指側(尺骨神経側)を意識して引っ掛けるようにすると、脇を締める筋肉との連動性が高まり、より広背筋下部への刺激が入りやすくなります。
サムレスグリップは親指でのロックがないため、手が滑り落ちないよう注意が必要です。慣れるまでは慎重に行ってください。
パワーグリップで握力の問題を解決
もしあなたが「背中よりも先に握力がなくなる」「前腕がパンパンになる」と悩んでいるなら、迷わず「パワーグリップ」や「リストラップ」といった補助ギアを導入することをおすすめします。
「道具を使うのは甘えではないか」と考える方もいるかもしれませんが、ボディメイクの観点では逆です。握力という「小さな筋肉」の限界が、背中という「大きな筋肉」の成長を邪魔しているなら、道具を使って握力を補助するのは非常に合理的な戦略です。
パワーグリップを使えば、指先でバーを保持する必要がほとんどなくなり、握力をほぼゼロに近い状態で動作を行えます。
| アイテム | 特徴 | おすすめ度 |
|---|---|---|
| パワーグリップ | ベロを巻き付けるだけでセット完了。握力をほぼゼロにできる。 | ★★★★★ |
| リストラップ | 安価だが、巻き付けにコツが必要。固定力は高い。 | ★★★☆☆ |
これにより、意識を100%「肘を引くこと」に向けられるようになります。実際に多くのボディビルダーやフィジーク選手が、背中のトレーニングでは必ずと言っていいほどパワーグリップを使用していますし、私も懸垂以外でも、背中のトレーニングの際は必ず、パワーグリップを使うようにしています。
初心者の方こそ、早い段階で取り入れるべきアイテムだと言えます。
あるのとないのではやりやすさがまったくと言っていいほど違います。
肩甲骨を寄せて広背筋を意識するコツ
腕で引くのではなく、背中で引く感覚を掴むためには、動作の「初動」が命です。いきなり肘を曲げ始めるのではなく、まずは「ぶら下がった状態で首を長くする」イメージを持ってください。
具体的には、完全に脱力した状態(デッドハング)から、肘を伸ばしたまま肩甲骨だけを下げ(下制)、耳と肩の距離を離します。
この「スキャプラプルアップ」と呼ばれる予備動作を行うことで、広背筋にテンションがかかり、背中の筋肉で引く準備が整います。この初動を飛ばしていきなり引き上げようとすると、どうしても腕主導の動きになってしまいます。
肩甲骨を下げてロックしたら、そこから初めて、肘を地面(あるいは骨盤のポケット)に向かって打ち付けるように引いていきます。
バーを胸に近づけるというより、「胸をバーにぶつけに行く」意識を持つと、自然と胸が張れて背中が収縮します。視線は常にバーか、それより少し上を見るようにすると、胸椎の伸展が維持しやすくなります。
これは他のラットプロダウンやローイングの種目でも同様で、動作の前に肩甲骨を下制過程を入れてやることで、腕や肩の余計な関与を減らすことができます。
ネガティブ動作で筋力不足を補う
まだ通常の懸垂が1回もできない、あるいは数回でフォームが崩れてしまう場合は、「ネガティブ懸垂(エキセントリック・プルアップ)」が非常に有効です。
これは、椅子やジャンプを使ってトップポジション(顎がバーの上にある状態)まで行き、そこから5秒〜10秒かけてゆっくりと下りてくるトレーニング法です。
筋肉の生理学的な特性として、自力で持ち上げる(短縮性収縮)ときよりも、重さに耐えながら引き伸ばされる(伸張性収縮)ときの方が、30〜40%ほど強い力を発揮できると言われています。
この特性を利用し、下ろす動作(ネガティブパート)に集中することで、筋力が不足している人でも高強度の刺激を背中に与えることができます。
ポイントは、ただ落ちてくるのではなく、「背中の広がりでブレーキをかける」感覚を持つこと。脇の下の筋肉が引き伸ばされる感覚を感じながら、コントロールして下りてくることで、効率的に筋力アップと神経系の発達を促せます。
斜め懸垂から始める段階的アプローチ
体重をすべて支えるのが難しい場合は、足を地面についた状態で行う「斜め懸垂(インバーテッドロウ)」に立ち返るのも賢い選択です。
鉄棒やスミスマシンを使い、体が斜めになる角度でバーを握ります。足がついている分、負荷が分散されるため、フォームの維持に集中しやすくなります。ここで「胸を張る」「肩甲骨を寄せる」「肘を後ろに引く」という基本動作を徹底的にマスターしてください。
体の角度を変えることで負荷調整も容易です。より水平に近づければ負荷が高くなり、直立に近づければ軽くなります。まずは自分が10回程度、正しいフォームでできる角度を見つけて練習しましょう。急がば回れで、ここで正しいフォームを体に染み込ませることが、結果として懸垂の完成度を高める最短ルートになります。
懸垂が二頭筋に効いてしまう状態の脱却
懸垂で二頭筋に効いてしまう悩みは、多くの人が通る道です。実際に私もパーソナルトレーナーとして活動している中でも、お客様から、背中じゃなくて腕を使ってる感じがする、というお声は多くあります。
確かに背中は他の筋トレの部位と比べて、意識しずらく苦手なイメージは多くあると思います。
ですが、本記事をご覧の皆さんは、握り方をサムレスグリップ(親指を他の指と同様に外側にする)に変え、パワーグリップを活用し、肩甲骨の動きを意識していけば確実に苦手意識はなくなっていくはずです。
トレーニングで大切なのは、回数をこなすことよりも、1回1回の質を高めることです。「腕ではなく背中で引く」感覚を一度掴めれば、あなたの背中は見違えるように成長していくはずです。まずは今日から、サムレスグリップと正しい初動の意識を取り入れてみてください。
※本記事で紹介したトレーニング法や効果は一般的な目安です。痛みがある場合や体に不調を感じる場合は無理をせず、医師や専門家の指導を仰いでください。

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